世間の求める商品価値と、コスプレイヤー側の価値観とは往々にして異なる場合が多い。
[駄犬の切り貼り実験ノート:第24回]
職業にはなりません。 以上。
解散!
……で終わったら楽ですが、そうもいきません。
今回は近頃話題のプロコスプレイヤー現象に関するお話です。 コスプレの世界でコンパニオンしたり同人でのROM販売や撮影会でお金を稼げる人がいるのは事実ですし、需要と供給がある以上は構わないと思います。 もちろんいわゆる版権キャラを使う場合、過去の事例から省みるに、公式のビジネスを妨害しない・もし著作権者から警告を受けた場合は従うべきですが、企業の側もそういった商業活動するコスプレイヤーを個別に使ったりする流れがある以上、相互関係も成立しています。 (著作権法は親告罪ですので、個々の著作権者によって判断は異なります)
しかし、日本国内においてコスプレイヤーそのものが長期に渡って生計を立てられるような“職業”“プロ”として確立しているのか?と問えばNoです。 実はこういったブームは数年おきに発生しているのですが職業としては定着せず、結局はポルノ方面に人材を供給してきた悪癖があります。 本人が自発的に進んでるなら構わないですが、過去そうでもなかったでしょう。
今回は割と、当り前の話をします。
「日本の給料&職業図鑑」におけるコスプレイヤー平均月収16万円?の謎 今回のプロコスプレイヤーブームの火付け役とも言える、宝島社より発行された書籍が結構なヒットで増刷を重ねています。
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宝島社「日本の給料&職業図鑑」税抜980円。 271種の職業(?)をファンタジーRPGのジョブ解説っぽく紹介しているので、事実性を求めなければ楽しい。 |
【http://tkj.jp/book/?cd=02500001】 この中にコスプレイヤーという項目があるのですが、そこには「コスプレイヤーを職業にした場合の平均月収は16万円」と記されています。 読者モデル平均5万円に比べてもかなり高い……。
ンなワケ、あるか。
だいたい職業コスプレイヤーの平均月収なんてどうやって統計を取るのか?誌面上では算出方法が説明されていません。 調査を開始します。[BGM:宇宙刑事ギャバン「追跡のテーマ」]
この書籍、元になったサイトがあります。「給料BANK」というタイトルで、ファンタジックなイラストをメインに日本の職業と給料を紹介するまとめサイトです。 【http://kyuryobank.com/】
このサイトのコスプレイヤー項目に、同じく平均月収16万円の記述と、そしてその引用元が2009年のコスモード33号読者アンケートである旨が記されています。
……コスモード。 それって、コスプレを職業としてる人向けの雑誌でしたっけ? 違いますね。 つまり「趣味でコスプレしてる人が本業で得ている月収」のアンケート結果を、「仕事でコスプレしてる人が得ている月収」に無理やり読み替えちゃったんですね……。 週刊プロレスの読者の平均月収をプロレスラーの平均月収として発表するようなものです。 また「40代以上で月収0円」になるのは、同誌コスイベ初参加年齢アンケートの回答に40代以上がいなかっただけです。
まー、まとめサイト系の情報がアバウトなのは仕方無い! でも、宝島社が書籍化するにあたって、その一次情報を確認せずに、しかも引用元すら消して数字だけ使ってるのはいただけない。
この書籍はヒットの部類で、全国の図書館にも入ってるんですよね。 10月末現在、わが船橋市の図書館では十数人待ち状態。 ネットの情報だけならともかく、書籍化されると色んな所に資料や企画材料として引用されやすくなるのでちょっと困りもの。 結果、間違った情報が一人歩きして、複数のニュースサイトにも記事化されていきまして。
ここが起点なので、昨今の深夜番組におけるコスプレ特集は「月収は○○万円!プロコスプレイヤー」みたいな、コスプレの価値を(かなりTV的な演出が入ったであろう)金額で語る企画が多いのでは……。 そろそろ進路を考える青少年の皆さんが感化されて「コスプレイヤーってお金を稼げるんだ!」となってしまうと……。 まぁ、自己責任ですが。 だって世の中には胡散臭い情報って沢山ある訳で、感化されて進路決めちゃうのは自己責任でしょう。 でもネットって広いので、検証する情報もこうして置いておけば、ちゃんと調べられる人の目には入る筈ですから。
「日本の給料&職業図鑑」および「給料BANK」におけるコスプレイヤー平均月収16万円という情報は間違いです。 元はコスモード誌上での「趣味でコスプレしてる人が本業で得ている月収」のアンケート結果を強引に読み替えてしまっているので、数字として根拠はありません。 続刊である「日本の給料&職業図鑑 Plus」でのコスプレイヤーの生涯賃金4032万円という情報も、元の月収の数値が間違いなので、まったく事実性はありません。 本気にしてプロコスプレイヤー目指そうなんて考えると…地獄が見えるかもしれません。
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余談かつフォローになるが宝島社のムックシリーズに関しては数が多く、編集者の嗜好がダイレクトに出てしまう傾向があり、精度に差がある。 思想的には若干偏っていたものの94年刊「怪獣学!入門」は怪獣映画を作家論や時代性から読み込む内容であり個人的バイブル。 97年刊「わたしをコミケにつれてって!」は今もって80〜90年代の同人・コスプレ史の最高の資料。 |
→前フリ終了、本題へ
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