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【おそ松さん】既知の憂鬱【第二期18話感想】
ネコ=バタートースト
2018年02月12日 02:21
おそ松さん
イヤミはひとり風の中
感想
もし貴方がこの時点で「イヤミはひとり風の中」というタイトルに覚えが無いなら,どうかそのまま何の予備知識も持たず本話を観て欲しい.余計な知識は,きっと鑑賞の邪魔をする.何事も「初めて」の時に抱く感情は,その後2度と味わえないものである.それが良いものであれ,悪いものであれ.
総評
太鼓判は押せない.初見さんの感想が気になる.
本話は,原作漫画「おそ松くん」の同タイトルを「さん」で再解釈・再構成した言わばリメイクである.また,この原作はチャプリンの映画「街の灯」を翻案したものである.よって間接的にだが「街の灯」へのオマージュとする事も出来るだろう.
正直,粗は多い.まずもって展開が聊か乱暴である.じっくり掘り下げたい・しっかり説明したい部分があっさりやり過ごされてしまった感がある.尤も,これは尺という物理的限界の為に致し方無い部分がある.極限まで切り詰めたOPを見ても,1秒でも尺を確保したいというスタッフの切実な想いが伝わる.そもそも漫画とアニメで全く同じシーンを描いたとして,漫画は読者のペースで読む事が出来る.つまり「行間」を読む余裕が十分与えられている訳である.一方でアニメは限られた尺の中で物語を完結させねばならない為,次々とシーンを入れ替えねばならないし,視聴者もそれについていくしか無いのである.一種の性急さというか,落ち着きの無さ,余裕の無さを感じるのもやむを得ない.それを思うと,僅か10分であれだけのドラマを展開した「手紙」が如何に出色の出来であったか良く解るというものだ.まあ,尺も含めて0から自由に創り上げられるオリジナル話と違い,既存の話を決められた尺の中に再構築していく過程で,色々と無理が生じてくるのだろう.
尺と言えば,大金を抱いたイヤミが駅へ駆けるシーンは冗長に感じる.演出的にも泣かせに来ているシーンなのは間違い無いが,私は感情移入が足りないのか少々手持ち無沙汰だった.
・OP
先述の通り,尺を確保する為に極限まで切り詰めた.それは英断だし潔い.ただ,音と映像を合わせる位はして欲しい.努力は見えても手抜きは手抜きである.
・時代設定
原作では江戸時代だったが,本話の時代設定は終戦後の昭和である(東京タワーが建設中→完成しているので間違い無い).
実に思い切った改変であるが,物語のテーマは全くブレる事無く描かれている.この手腕は見事なものである.サムライが出てくると我々日本人にとってもある種SFの様な遠き世界になる所を,現代に近付ける事でより身近な話として描こうとしたのではなかろうか.その試みは成功した様に思われる.
・色の表現について
私にセンスが無いだけかも知れないが,本話の色演出は私には理解出来無い.
基本的に映像はモノトーン調であるが,6つ子の服は淡く塗り分けられている.それはまあ解る.
月が度々黄色く輝くシーンがある.それもまあ解る.白塗りだと昼か夜か一瞬混乱しかねない.
菊が売っている花の内,イヤミに差し出した2輪だけに色がついている.ちょっと疑問符である.確かにイヤミと菊を結び付けた花であるし,完治した菊は花屋を営んでいる.だが「花」そのものにそこまでの強烈な意味があるだろうか?
より不可解なのは,大金を手にするも疲労困憊のイヤミがチビ太の叱咤激励を受け,奮起するシーン.イヤミの回想で菊にだけ鮮やかな色がついているが,その理由が全く不明である.それだけイヤミにとって菊が大きな存在だと示すものかも知れないが,それは色の有無によらず十分伝わってくるので,敢えてこの様な演出をする事が小賢しく思えるのだ.
モノトーンの中に鮮やかな色が登場するというのは大きなインパクトなので,やはりここぞという一点に使いたいものである.私なら,菊の見る世界と連動させるという意味で,イヤミ出所までは完全にモノトーンで統一する.安直な演出だが,下手に奇をてらわない分伝わり易く,それで十分と思うのだ.
・重箱の隅を突くと
幾らでもケチをつけられる.「50円じゃない事は触ればすぐ判る」とか「身寄りが無いのに菊が小奇麗過ぎる」とか.しかし本話がそういうリアルさを追求する目的でない事は誰の眼にも明らかだ.蕎麦屋でハンバーガーが無いと言っている様なものであり,滑稽である.多少の誇張や無理があっても,「人情物」の本話を楽しみたい.ただ……
・イヤミ逮捕されるも大金は無事菊の手に
このシーンの無理矢理さは擁護出来無いだろう.ここは原作の方が違和感無い.
・本話は「泣ける」のか
本話が人情物である以上,視聴者の涙腺をどれだけ緩められるのかは最重要点である.先述のイヤミが駅へ駆けるシーン等,幾つかの「泣き所」があると思うが,私が最も涙腺に来たのは「警官の包囲を解く為に住人が狂言リンチを繰り広げるシーン」である.これまた古風でありきたりな展開だが,解っていてもウルッと来るのが王道の王道たる所以,大好きである.
裏を返せば,それ以外のシーンでは然程感動が無かったという事でもある.展開の性急さもあるし,あくまでも私の個人的感想だがもう少し芝居にアツさが欲しかった.映画でも舞台でも,およそ役者が演じるものであれば何でも有り得るが,台詞や状況とは全く無関係に,演技そのものに圧倒されて感動するという経験が無いだろうか.私はある.本話の演技は決して冷めているという訳では無いが,私としてはもう1歩,魂から捻り出されて来た様な,圧倒的な説得力の滲み出る芝居を欲したい.本作のキャスト・スタッフなら,十分そこに手が届く筈である.
・本話は「良かった」のか
私には評価しかねる.何故なら私は本話の原作も,更にその原作も知っている.極論,筋書きも泣き所も全部知っていた訳である.どうしても「新たな感動」,「初見の衝撃」といったものに欠け,力の入った演出も冷めた目で見てしまう面がある.とはいえ,私は「原作至上主義」では無い.本記事の中で幾つか原作漫画と比較した文面もあるが,一概にアニメは駄目だ,という書き方はしなかったつもりだ.それぞれに得手不得手があって評価点も違ってくるのであり,本話で「イヤミは~」に初めて触れたという方も,とても幸せな出会い方をしたと思うのだ.
だからこそ,自分の記憶を抹消して本話を「初めて」観てみたいと思うし,本話が初見だった方がどの様な想いを抱いたのか非常に興味がある.
・ラストシーン
イヤミが投獄されてから最後の暗転までのおよそ3分間は,一切台詞が存在しない.赤塚先生も本話のラストシーンは何度も描き直したと述懐しているが,アニメでも相当の神経を使って描写した事は容易に想像出来る.劇伴も実に実に,実に映像とマッチしている.この「怒涛の無声の3分間」を,「何と無く知ってる」状態でしか味わえなかった事が本当に悔やまれる.初見の方がこのラストシーンに何を感じたか,夜通し語り合いたい程である.
以上の様に,プロットが既知の私には,本話は「努力の跡が見える」といった程度の評価しか出来無い.本当の意味での評価は,やはり「本話で初めて本話に触れた」人が行うべきであろう.
「さん」に於いて本話は異端である.本話をもって「さん」の代表話とする事は出来無い.しかし本作に対するスタッフの態度が大きく現れたエピソードだったと思う.
私の見る限り,本話はアニメファンにも,原作ファンにも媚びていない.あるのは原作(及び原作の原作)へのリスペクトと,製作への真摯な想いだ.ウケを度外視して,「これが俺達なりの『イヤミ~(街の灯)』だ!」という表現者としての矜持を感じる.
過去記事で触れた様に,第二期はシリアスストーリーの比重が軽い.今期も2クールで終了とすると既に折り返しを越えているが,後1話位はガチエピソードを観てみたいものである.
TVアニメ「おそ松さん」公式サイト:
http://osomatsusan.com/
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